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――ただ歩きたくないだけだと思うわ。
今のところ、私がおかしなものを見たことはない。
この小径の途中には、小さな神社があるくらいで、必ずここで足を止め、手を合わせてから進む。
祠と鳥居、狛犬が一体のみの本当に小さな神社。
神様の名はわからないけど、山路の守り神だと、祖父から聞いている。
同じように父も聞いているはずなのに、父が手を合わせたところを一度も見てない。
いつものように手を合わせ、目を開けた。
家のほうへ続く道に視線を戻すと、そこには白い犬が一匹。
「犬? どこの家で飼われてる犬かしら?」
犬種はわからないけど、ふさふさの白い毛に狼のような凛々しい顔立ち。
美しい白銀の毛並みは、まるで雪のよう。
犬は私が近づくのを待って、手を伸ばしても触れられない距離を保ち、少し先を歩いていく。
犬に導かれるようにして祖父の家に到着した。
見慣れたはずの祖父の家。
でも、私は見た途端、驚いてしまった。
「どうして店が開いてるの!?」
祖父が亡くなり店を閉めたはずなのに、山路の文字が書かれた暖簾が風に揺れている。
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