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それを見た瞬間、走り出して玄関の戸を開けた。
「おじいちゃん!」
いるはずのない祖父を呼んだ。
私の声が誰もいない家に響き、風が木の戸を鳴らした。
「あ……」
――なにしてるんだろう。
私は祖父に会いたかったのだと気づいた。
話したいことがたくさんある。
でも、もう話せない。
喉の奥が痛み、涙がこぼれた。
「おじいちゃん……」
ふわっと暖かい空気を感じて、顔を覆った手をはずすと、そこには私の前を歩いていた白い犬が寄りそっていた。
「もしかして、お前が店を守ってくれてたの?」
犬を抱き締めると安心感があり、なおさら涙が止まらくなって困った。
でも、誰もいないのだから、泣いてもいい。
いろんな感情が混じった涙が流れ、そこでようやく自分の気持ちに気づいた。
――私、ずっと泣きたいのを我慢してたんだ。
優しい犬なのか、じっとしていて私が泣き止むのを待ってくれていた。
散々泣いて、お腹がぐうと鳴る音で我に返った。
「お腹空いた……」
すでに日が傾き、玄関から奥に続く廊下が薄暗い。
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