3 怪しい男

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「ひえっ!?」  混乱して男の人を思いっきり突き飛ばした。  でも、びくともしない。  じっと黒い目が私を見つめていた。 「い、犬は? 犬はどこ? そして、あなたは誰ですか?」 「俺が犬だよ」  たしかに犬っぽいけど、どこからどう見ても人間だ。  ぼさっとした髪と祖父が好んで着ていた藍色の甚平。  年のころは私よりいくつか上に見えるけど、性別は男。  お・と・こですよ!?  ただし、犬を自称する成人男性。 「こんなしっかりした人間の体をしていて、犬なわけないでしょ!」 「犬だよ。正しくは狛犬。鼻水垂らして泣いてたくせに元気だね。これなら、安心だ」 「鼻水は垂らしてないわよっ……! だいたい狛犬は獅子で、犬じゃないの!」 「色々な狛犬がいるって知らない?」  う、うわぁ。なんて挑発的な犬……じゃなくて、男性だろうか。   「俺はそこの神社の狛犬だよ」  そういえば、狛犬がいなかったような……?  手を合わせた時に、なにか足りない気がしたかもしれない。  
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