815人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
「ひえっ!?」
混乱して男の人を思いっきり突き飛ばした。
でも、びくともしない。
じっと黒い目が私を見つめていた。
「い、犬は? 犬はどこ? そして、あなたは誰ですか?」
「俺が犬だよ」
たしかに犬っぽいけど、どこからどう見ても人間だ。
ぼさっとした髪と祖父が好んで着ていた藍色の甚平。
年のころは私よりいくつか上に見えるけど、性別は男。
お・と・こですよ!?
ただし、犬を自称する成人男性。
「こんなしっかりした人間の体をしていて、犬なわけないでしょ!」
「犬だよ。正しくは狛犬。鼻水垂らして泣いてたくせに元気だね。これなら、安心だ」
「鼻水は垂らしてないわよっ……! だいたい狛犬は獅子で、犬じゃないの!」
「色々な狛犬がいるって知らない?」
う、うわぁ。なんて挑発的な犬……じゃなくて、男性だろうか。
「俺はそこの神社の狛犬だよ」
そういえば、狛犬がいなかったような……?
手を合わせた時に、なにか足りない気がしたかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!