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「いいえ。騙されないわよ。神社の狛犬まで移動させて、手の込んだドッキリね? わかった。あなたはお父さんが言っていたお見合い相手……」
そこまで言ってから、『あ、違うな』と思った。
彼は父が好むようなタイプではないからだ。
祖父と同じデザインの甚平を着て、眠そうにあくびをひとつ。
ぼんやりした容姿にぼさぼさ頭は父と真逆だ。
「ごめんなさい。勘違いです」
お見合い相手の可能性を捨てた。
「うん。そろそろ店にお客がやってくるから、ついでに立栞のごはんも作るよ」
慌てて体の上から退き、何事もなかったかのようにとりつくろった。
「初対面から呼び捨て!?」
「昔から知ってるから、しかたないよね」
「私はあなたのことを知らないわよ」
「知ってるよ。いつも手を合わせて俺を見てたくせに」
犬が動く前に伸びをするように、彼も大きく体を伸ばした。
「さて、作るか」
祖父が使っていた厨房は玄関入ってすぐそこにある。
配達しやすいように玄関の近くに厨房があるのだ。
家は二階建てで、昔は一階が宴会ができるような座敷、二階を住居部分に使っていたとか。
「開店時間だ」
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