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「ちょっと待って。開店ってどういうこと? おじいちゃんが死んで山路は閉店したはずよ」
「してない。店は俺が継いだ」
「店が開いてるなんて誰も言ってなかったし、そもそも、あなたが作ってお客は来るの?」
スマホを確認し、『仕出し屋 山路』と入力して検索する。
「営業時間は夕方から明け方!? 絶対、嘘でしょ?」
「夜でも客は来るよ」
頭の中が混乱し、なにをどこからどう聞いたらいいのか、さっぱりわからなかった。
「とりあえず、中に入って休むといいよ。俺は厨房にいるから」
私が管理を任されたはずの祖父の家。
先住犬……じゃなくて、先住者がいるなんて聞いてない。
甚平姿の自称犬は私を無視して、慣れた様子で開店準備をしている。
竹林の小径を歩き、抜けたところにある看板を灯しにいく。
薄暗くなり、木造の電柱の電灯も点灯し、道を照らし出す――
――おじちゃんがいた頃と同じ。
そんなに経ってないはずなのに、懐かしくて泣きそうになった。
出汁の香り、鍋の湯気、器の音が聞こえてくる。
そっと厨房を覗くと、彼の手がせわしなく動いていた。
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