3 怪しい男

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 たくさんの卵を割り、卵をかき混ぜ、冷めた出汁と調味料を混ぜる。  使い捨て容器を並べ、毛筆書きの『山路』の文字が入った和紙が置かれていた。 「こんな時間に注文があるの?」 「しかたない。昼間に人の姿になると力を消耗するから、夜に店を開けるしかない」 「あ、あのねぇ、本気で人じゃないとか言う?」  彼はきょとんとした顔で、私を見た。 「うん」  迷いなく、うなずいた。  犬の姿は見たけれど、犬が人になるなんて、にわかに信じがたいし、簡単に受け入れられない。  すんなり受け入れられる人がいるなら、見てみたい―― 「狛犬さーん! だし巻き卵をひとつください」  ――いた。 「どうぞ。できてるよ」  ずらりと並んだ金色のだし巻き卵は、大通りの銀杏並木を思い出させた。  祖父が得意にしていた卵焼きは大きく、どっしりしていて食べごたえがある。  これを食べたくてお弁当を注文する人もいた。  自称狛犬は、プラスチックの透明容器に山路と書かれた和紙を張りつけ、袋に入れる。   「えへへ。まだあったかーい」
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