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お客様は小学生らしく、ランドセル姿に制服、手さげカバンにはピアノの教本が入っている。
キャラクターものの財布から、五百円玉を出して狛犬に渡すと、やっと私の存在に気づいた。
まさか、彼以外の人間が店にいると思っていなかったようで、こちらを見て目を丸くしていた。
「え? 狛犬さんに恋人ができたの?」
「違うよ。彪助の孫だ。あいつに似て、頑固で気が強いよ」
彪助とは、私の祖父の名前だ。
彼はいったいいくつなのか、亡くなった祖父を子供扱いして、私の性格まで言い当てた。
「まさか本当に狛犬なの?」
「そうだよ! 狛犬さんなの。狛犬さんは昔からいるのに、お姉ちゃん知らないの?」
「お姉ちゃんも昔から、ここにはけっこう来てたのよ?」
――ああ、大人げなく張り合ってしまった。
近所の人は私を知ってるし、この店だって手伝っていた。
それなのに、たった一年の不在でよそ者扱いされるのは納得いかない。
「じゃあ、彩友より先輩なんだ……」
なんなら、人生も先輩である。
「彩友ちゃんはお母さんと一緒に一年前、近所に越してきたんだ」
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