3 怪しい男

6/12

814人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
 お客様は小学生らしく、ランドセル姿に制服、手さげカバンにはピアノの教本が入っている。  キャラクターものの財布から、五百円玉を出して狛犬に渡すと、やっと私の存在に気づいた。  まさか、彼以外の人間が店にいると思っていなかったようで、こちらを見て目を丸くしていた。 「え? 狛犬さんに恋人ができたの?」 「違うよ。彪助(とらすけ)の孫だ。あいつに似て、頑固で気が強いよ」  彪助とは、私の祖父の名前だ。  彼はいったいいくつなのか、亡くなった祖父を子供扱いして、私の性格まで言い当てた。 「まさか本当に狛犬なの?」 「そうだよ! 狛犬さんなの。狛犬さんは昔からいるのに、お姉ちゃん知らないの?」 「お姉ちゃんも昔から、ここにはけっこう来てたのよ?」  ――ああ、大人げなく張り合ってしまった。  近所の人は私を知ってるし、この店だって手伝っていた。  それなのに、たった一年の不在でよそ者扱いされるのは納得いかない。 「じゃあ、彩友(さゆ)より先輩なんだ……」  なんなら、人生も先輩である。 「彩友ちゃんはお母さんと一緒に一年前、近所に越してきたんだ」
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

814人が本棚に入れています
本棚に追加