3 怪しい男

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 これは賄いを食べる人のためのテーブルと椅子で、時には子供たちが食事をする場所にもなった。  父もここで食事をしていたはずだ。  年季が入ったテーブルに運ばれてきたのは、漆塗りの椀に味噌汁、陶器の器には炊きたての白いご飯、大きなだし巻き卵。  だし巻き卵は焼き魚用の長角皿にドンッとのせられ、存在感を放っている。  呉須(ごす)の顔料で、青い竹の絵が描かれた白の長角皿。  竹は山路の店の象徴であり、店の文字の隣に竹の絵を置くことが多い。 「だし巻き卵、美味しいと思うよ」 「たいした自信ね。あ、ご飯茶碗……」  さあ、食べようと意気込んだのに、彼が用意した箸とご飯茶碗に気づき、私の手が止まった。  それは山路に来た時、いつも使っている私専用のお茶碗と箸だった。    ――なぜ彼が私専用の箸とお茶碗を知ってるのだろう。 「間違ってた?」 「合ってるから驚いていたの」 「小さい頃から見てたから、なんでも知ってるよ。裏の渋柿を食べて驚いて泣きだしたことも、片想いしてた相手に手作りチョコレートを贈ろうとして、彪助を頼ったあげく、フラれ……」 「ストップ! プライバシーの侵害よ!」  
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