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もしかしたら、彼の正体がわかるかもしれないから。
そんな期待もあったけれど――
「そのうちね」
――残念ながら教えてもらえなかった。
「あなたばかり私を知ってるなんて、ずるいわ」
「年長者に対する敬意が足りてないから」
「え? 年長者?」
「俺は君よりずっと年上だ」
狛犬だから、自分のほうが年上であると彼は主張してるけど、外見年齢は同じくらいなのだ。
それに浮世離れしているからか、話していても私よりずっと年下に感じる。
年上扱いされず、彼は不満そうにしていたけど、卵を焼くのに忙しいようで、それ以上なにも言わなかった。
「もういいわ。狛犬で」
疲れていたし、堂々巡りになりそうな気がしてやめた。
「狛犬だって言ってるのに」
「狛犬ね。わかりました。おとなしく食事をいただきます」
仕事の邪魔をしてはいけないと思って、私も黙って食べることにした。
――祖父の店を遊びでやってるなら、許さないんだから!
久しぶりの温かい味噌汁と炊きたてご飯、だし巻き卵。
箸で金色のだし巻き卵を切る。
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