3 怪しい男

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「来るよ。習い事帰りの彩友ちゃんが一番で、そこからは仕事帰りの人が多い」  眺めていると、仕出し弁当というより、祖父が作っていたおかずをお総菜のようにパックに詰めて売っている。  もちろん、お弁当もいくつかある。    「一人だから彪助がいた時みたいに、大口のお弁当の注文は引き受けられない。でも、味は残したいと思って、こうして続けてる」 「味を残す……」 「立栞はなんのために料理をしたいと思った?」  一瞬、祖父から問われたような気がして、胸が苦しくなった。  ――なんのため?  私は即答できななかった。  以前なら『一人前の料理人になるためよ』と言えたのに。  料理を作れなくなった私にとって、その問いかけは、重くて辛いものだった。
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