4 同居の提案

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 食べ終わった後の茶碗を洗い場へ持っていき、シンクの中にたまっていた洗い物もついでに片付ける。  祖父が使っていた道具を丁寧に使ってくれているのか、きちんと乾燥されて汚れもなく、以前と変わらない場所に収められている。    ――おじいちゃんと生きていた頃と変わらない空気がまだ残ってる。  懐かしくてホッとする空気がここにはある。  祖父が幼い私に言っていた言葉を思い出した。 『変わらないものに安心感を見い出す人もいる。その安心感が、この店の歴史を繋いでいる』  前へ進まなくてはいけないと、必死になっていた頃の私は、その言葉の意味に気づけなかった。  心の弱った今だからこそ気づいたのだ。  ――この場所の大切さに。  道具を洗い、水切りかごに入れていると、ごぼうの香りに気づいた。  狛犬だと思えない手つきで、きんぴらごぼうを作っている。  絶対、犬ではない。  こんなデキる犬がいてたまるもんですか。  炒めたごぼうとにんじんの中に調味料を加え、仕上げにゴマ油をたらし、サッと箸でひと混ぜ。  別のフライパンで炒ってあったゴマを加え、甘辛で香ばしいきんぴらごぼうが完成した。  
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