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食べ終わった後の茶碗を洗い場へ持っていき、シンクの中にたまっていた洗い物もついでに片付ける。
祖父が使っていた道具を丁寧に使ってくれているのか、きちんと乾燥されて汚れもなく、以前と変わらない場所に収められている。
――おじいちゃんと生きていた頃と変わらない空気がまだ残ってる。
懐かしくてホッとする空気がここにはある。
祖父が幼い私に言っていた言葉を思い出した。
『変わらないものに安心感を見い出す人もいる。その安心感が、この店の歴史を繋いでいる』
前へ進まなくてはいけないと、必死になっていた頃の私は、その言葉の意味に気づけなかった。
心の弱った今だからこそ気づいたのだ。
――この場所の大切さに。
道具を洗い、水切りかごに入れていると、ごぼうの香りに気づいた。
狛犬だと思えない手つきで、きんぴらごぼうを作っている。
絶対、犬ではない。
こんなデキる犬がいてたまるもんですか。
炒めたごぼうとにんじんの中に調味料を加え、仕上げにゴマ油をたらし、サッと箸でひと混ぜ。
別のフライパンで炒ってあったゴマを加え、甘辛で香ばしいきんぴらごぼうが完成した。
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