4 同居の提案

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 ――おじいちゃんの作り方そっくり。ううん。おじいちゃんだけじゃない。もしかしたら、その前の代も知ってる?  彼がどれだけ長い間、この山路を見てきたのか、伝わってきた。  料理人を辞めて楽になったはずなのに、彼が私以上に『山路』を知っていると思った途端、息苦しさを感じた。  この家に、仕出し屋『山路』に必要なのは私ではなく彼だった。  「私、帰ってこなきゃよかった」  きんぴらごぼうを冷まし、次の料理を作ろうとしていた狛犬が手を止める。 「なんで? 俺は立栞(りつか)がここへ帰ってくるのを待ってたよ」 「やめてよ。私がいても使いものならないし、それだけ作れたら、あなた一人で『山路』を守っていけるわ。それに、私はもう料理を作りたいと思えないの!」  彼が悪いわけではないのに、最後のほうは声を荒げていた。  ――私は自覚した。  自分がどんな料理人になりたかったのか、やっと気づいたのだ。  でも、気づいた頃には、私は料理を作れなくなっていた。 「俺、待ってたのに……」 「えっ!? ご、ごめんなさい」  さっきまで堂々と料理をしていたくせに、急に幼い子供のような顔をした。
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