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――自称狛犬が私を待っていたというのは本当だった。
その場しのぎの言葉だと思っていたのに、違うと気づいたのは、眠りに落ちてからのことだった。
私が眠った布団は、お日様の匂いがして、洗いたてのパリッとした肌触り。
白い障子戸の部屋は遮光カーテンと違い、朝日が昇ると室内を白く照らす。
太陽の光で目覚めたのは、久しぶりかもしれない。
吉浪で働いていた頃は、夜遅くに帰っていたから、朝日とともに起きる習慣はなかった。
張り替えられた真新しい白い障子紙が、誰かがやってくるのを待っていたと教えていた。
「おやすみからおはようまで至れり尽くせりで、食事まで作ってもらって……犬に。本当に犬?」
急ごしらえで用意できるものではない。
――本当に狛犬なのかも? いやいや! そんなわけないでしょ!
ご飯ひとつで、あっさり怪しげな男を信用してしまいそうになる単純な自分。
でも、体調がいいのは間違いない。
ぐっすり眠れたからか、重かった頭と体が軽く感じる。
「まさかご利益……?」
いつもに比べてだけど、目覚めは悪くなく、布団から這い出ると、部屋の窓を開けた。
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