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広い庭を挟んだ向こうには竹林の小径が見える。
二階の窓からの眺めはよく、朝の澄んだ新鮮な空気を肺に吸い込んだ。
竹が風に揺れて音を鳴らす。
この部屋は私が子供の頃から使っていた部屋だった。
古い柱に少女漫画雑誌のシールが残り、机の引き出しには付録の便箋が大切に仕舞われている。
私が中学生になり、この家に預けられることがなくなっても祖父は捨てずに、そのままにしてあったようだ。
――変わらない。ここから見える景色は何年経っても同じ。
秋らしい澄んだ青の空と緑が濃い竹林を眺め、しばらく柱に寄りかかっていた。
祖父の気配がまだ残っているのは、あの狛犬を自称する怪しい人物のおかげで、なにもかもホコリをかぶっていてもおかしくなかったのだ。
昨日、祖父そっくりのご飯を食べたせいか、私の警戒心が薄まりつつある。
「狛犬かどうかは別にして、お礼を言ったほうがいいわよね」
持ってきた着替えは三日ぶんほど。
この先、一緒に同居するかどうか、まだ決めてない。
――向こうはその気がなくても、嫁入り前の私が見知らぬ男性と同居なんて、さすがのお父さんも卒倒するわよ。
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