5 祖父の後継者

3/14

812人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
 広い庭を挟んだ向こうには竹林の小径が見える。  二階の窓からの眺めはよく、朝の澄んだ新鮮な空気を肺に吸い込んだ。  竹が風に揺れて音を鳴らす。  この部屋は私が子供の頃から使っていた部屋だった。  古い柱に少女漫画雑誌のシールが残り、机の引き出しには付録の便箋が大切に仕舞われている。  私が中学生になり、この家に預けられることがなくなっても祖父は捨てずに、そのままにしてあったようだ。  ――変わらない。ここから見える景色は何年経っても同じ。  秋らしい澄んだ青の空と緑が濃い竹林を眺め、しばらく柱に寄りかかっていた。  祖父の気配がまだ残っているのは、あの狛犬を自称する怪しい人物のおかげで、なにもかもホコリをかぶっていてもおかしくなかったのだ。  昨日、祖父そっくりのご飯を食べたせいか、私の警戒心が薄まりつつある。 「狛犬かどうかは別にして、お礼を言ったほうがいいわよね」  持ってきた着替えは三日ぶんほど。  この先、一緒に同居するかどうか、まだ決めてない。  ――向こうはその気がなくても、嫁入り前の私が見知らぬ男性と同居なんて、さすがのお父さんも卒倒するわよ。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

812人が本棚に入れています
本棚に追加