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そもそも、私の結婚相手をお見合いで決めてやると言っているくらいなのだ。
自分が選んだ相手が一番だと思っているに違いない。
父の会社にとって都合のいい人間でなければ、反対するのは目に見えている。
私が料理人になるのも反対していた父だけど、なぜか料亭『吉浪』に決まると、反対する勢いが弱まったことを思い出す。
――変ね? もっと妨害してもよさそうなのに。
父の考えはよくわからない。
向こうも私が考えがわからないと言っていたから、おあいこだ。
過去を少し振り返りながら着替えた。
おしゃれをする気にはなれず、薄手の黒のニットとジーンズを適当に選ぶ。
人間の体は複雑で不便だと思う。
体力があっても気力がなければ、体がうまく動かないのだから、ロボットみたいにはいかない。
とはいえ、ノーメイクの顔を見せるのも抵抗がある。
しばらく、化粧をしていなかったことを思い出し、荷物の中から化粧ポーチを探した。
二階には昭和を感じさせるタイル張りのレトロな洗面所がある。
顔を洗って最低限の化粧だけをして気づいた。
「化粧したのって久しぶりかも」
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