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――簡単に食べられるものを買ってこよう。コンビニかスーパーでいいや。
大掃除をする必要がなくなり、私がやることといったら、祖父の遺品整理くらいだけど、父に報告したほうがいいだろうか。
祖父が家の管理ができる人間を生前に頼んであったと、父はまだ知らないのだ。
私は彼が本当に狛犬だなんて思ってない。
私の頭の中で、彼は人間の男性として認識されていた。
昨日みたいに食べ物で騙されると思ったら、大間違いなんだから!
犬だと言っていたのは、きっと彼の冗談――
「ぎゃっ!」
階段をおりた先の玄関に、白い犬がいた。
「い、犬? 迷い犬ですか?」
犬は丸まって眠っている。
近くで見るとかなり大きくて、どこか神々しい。
昨日、竹林の小径で見た白い犬だと気づいた。
犬は眠いらしく、わずかに目を開けた。
「ま、まさか、犬? いえ、本当に狛犬だった?」
眠そうな顔から思い出すのは、自称狛犬の彼だけ。
失礼だけど、犬の時も人間の時も変わらず、気の抜けた顔をしていたから、すぐにわかった。
神々しいのはたしかだけど、性格は隠しきれないようだ。
黒い瞳が私を見ている。
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