811人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
人じゃないと、何度も言っていたのに信じなかったのは私だ。
父がここを『化け物が住んでいる』と言って、恐れていたのは彼らの姿が見えていたから。
もしかしたら、私の目には彼らが普通の犬か人に見えていたのかもしれない。
「だからさ」
「う、うん……」
改めて彼が本物の狛犬だと知り、私はちょこんと正座した。
「スーパーに行くなら食材を買ってきてくれると助かる」
「え? スーパー?」
狛犬からなにを頼まれるのかとドキドキしていたら、スーパーへの買い物で、拍子抜けしてしまった。
巨体の下に隠していた一枚の紙切れに『鮭』『里芋』『酒粕』など、毛筆で書かれている。
「メモなのに無駄に達筆ね」
「まあね。『山路』の文字を書いたのは俺だし」
店の看板の『山路』の文字。
堂々とした文字が頭に浮かぶ。
たしか、あの看板は初代からある看板だ。
「もしかして、山路の初代からいたの?」
「それよりずっと前からだ。山路の初代と仲良くなって、食事のお礼に看板を書いてやった」
「書いてやったって……」
「書かせていただいた」
最初のコメントを投稿しよう!