5 祖父の後継者

8/14

811人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
 人じゃないと、何度も言っていたのに信じなかったのは私だ。  父がここを『化け物が住んでいる』と言って、恐れていたのは彼らの姿が見えていたから。  もしかしたら、私の目には彼らが普通の犬か人に見えていたのかもしれない。 「だからさ」 「う、うん……」  改めて彼が本物の狛犬だと知り、私はちょこんと正座した。 「スーパーに行くなら食材を買ってきてくれると助かる」 「え? スーパー?」    狛犬からなにを頼まれるのかとドキドキしていたら、スーパーへの買い物で、拍子抜けしてしまった。  巨体の下に隠していた一枚の紙切れに『鮭』『里芋』『酒粕』など、毛筆で書かれている。 「メモなのに無駄に達筆ね」 「まあね。『山路』の文字を書いたのは俺だし」  店の看板の『山路』の文字。  堂々とした文字が頭に浮かぶ。  たしか、あの看板は初代からある看板だ。    「もしかして、山路の初代からいたの?」 「それよりずっと前からだ。山路の初代と仲良くなって、食事のお礼に看板を書いてやった」 「書いてやったって……」 「書かせていただいた」
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

811人が本棚に入れています
本棚に追加