プロローグ

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「気が変わったら、また連絡してほしい」 「はい。最後までありがとうございました……」  涙をこらえ、お礼の言葉を口にし、お互い目を合わせずに別れた。  荷物を片付け、ロッカーをからにし、使っていた『吉浪』の名前が入った白い制服を置く。  ロッカーの戸を閉めた時、私の料理人としての未来が終わったような気がした。  厨房に最後の挨拶をするつもりで入ろうとした時、聞こえてきた声は―― 「彼女、本気で板前になるつもりだったんですかね?」 「さあな。嫁入り前に料理の勉強ができると思って、働いていたんじゃないのか」  笑い声混じりで私のことを話していた。  笑っていたのは、私より先に昇進した後輩たちだった。 「そもそも調理長が女に任せるわけがない。ここは料理学校じゃなくて、料亭『吉浪』だぞ」 「彼女をスカウトしたのは経営者だ」  私の才能を見込んで、スカウトしたのは経営者であって、調理長ではないから、通常の採用とは違うと彼らは言いたいらしい。 「辞めてもらってよかったよ。厨房に女性がいるってだけで、気を遣うしな」  ――ああ、そう。『女だから』。これが一番の理由だったっていうわけ。
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