811人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
「けっこうな量があるし、材料は安くて新鮮なほうがいいわよね」
涼しいのを通り越して、冷たく感じるようになった秋風を遮るため、ショールで首元ををぐるぐる巻きにした。
私が行くのは、祖父と一緒によく行っていた八百屋と鮮魚店である。
特に鮮魚店は船を持っており、新鮮な魚が手に入る。
「あれっ! もしかして、立栞ちゃん?」
いち早く私に気づいたのは、魚屋のおじさんだった。
店の横で魚が入っていたボックスを洗いながら、顔をこちらへ向ける。
「おはようござ……いえ、こんにちは」
もう日が高い。
朝の挨拶ではなかった。
「やっぱり山路に帰ってきたんだなぁ。料亭『吉浪』で修行してるって、話には聞いてたけど、修行は終わったのかい?」
「修行? いえ、あの……修行というか。そんなことをおじいちゃんが言っていたんですか?」
「いや、狛犬様だよ」
――あ、あれ? 正体を隠してないの?
魚屋のおじさんは大量の水をホースから出して、ボックスの氷を流していく。
夏は涼しく見えた魚屋の氷も今は冷たく見える。
最初のコメントを投稿しよう!