5 祖父の後継者

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「けっこうな量があるし、材料は安くて新鮮なほうがいいわよね」  涼しいのを通り越して、冷たく感じるようになった秋風を遮るため、ショールで首元ををぐるぐる巻きにした。  私が行くのは、祖父と一緒によく行っていた八百屋と鮮魚店である。  特に鮮魚店は船を持っており、新鮮な魚が手に入る。 「あれっ! もしかして、立栞ちゃん?」  いち早く私に気づいたのは、魚屋のおじさんだった。  店の横で魚が入っていたボックスを洗いながら、顔をこちらへ向ける。 「おはようござ……いえ、こんにちは」  もう日が高い。  朝の挨拶ではなかった。   「やっぱり山路に帰ってきたんだなぁ。料亭『吉浪』で修行してるって、話には聞いてたけど、修行は終わったのかい?」 「修行? いえ、あの……修行というか。そんなことをおじいちゃんが言っていたんですか?」 「いや、狛犬様だよ」  ――あ、あれ? 正体を隠してないの?  魚屋のおじさんは大量の水をホースから出して、ボックスの氷を流していく。  夏は涼しく見えた魚屋の氷も今は冷たく見える。
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