5 祖父の後継者

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「いやぁ、よかった。主がいない山路は寂しいからねぇ。組合の集まりで、また山路の仕出し弁当を注文させてもらうからさ。頼むよ!」 「は、はい……」 「これは祝いだ! サービスしとくから持っていきな!」  そう言って、おじさんは鮭を一本包んでくれた。 「ありがとうございます」 「いやいや。狛犬様によろしく!」  鮭と書いてあったけど、切り身と書いてなかったから、一応、おつかいは果たしたことになると思う(たぶん)。  次の八百屋でも同じ反応だった。  誰もが狛犬様、狛犬ちゃん、狛犬さんと呼ぶ。  しかも、財布を出そうとしても断られ、私の両手は食材であっという間に塞がった。  人徳ならぬ犬徳である。    ――あの狛犬! 堂々と地域に根付いてる!?  それに、私が山路を継ぐだなんて言いふらして。  おかえりなさいの意味もこめられた食材の数々が、実際の重さよりもずっしり感じたのは気のせいではないはずだ。 「とんでもない犬ね……」  肩にぶらさがる大根、腕にかけられた里芋の袋と玉ねぎの袋、そして鮭がまるごと一本などなど。  ふらふらになりながら、竹林の小径を歩く。
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