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「いやぁ、よかった。主がいない山路は寂しいからねぇ。組合の集まりで、また山路の仕出し弁当を注文させてもらうからさ。頼むよ!」
「は、はい……」
「これは祝いだ! サービスしとくから持っていきな!」
そう言って、おじさんは鮭を一本包んでくれた。
「ありがとうございます」
「いやいや。狛犬様によろしく!」
鮭と書いてあったけど、切り身と書いてなかったから、一応、おつかいは果たしたことになると思う(たぶん)。
次の八百屋でも同じ反応だった。
誰もが狛犬様、狛犬ちゃん、狛犬さんと呼ぶ。
しかも、財布を出そうとしても断られ、私の両手は食材であっという間に塞がった。
人徳ならぬ犬徳である。
――あの狛犬! 堂々と地域に根付いてる!?
それに、私が山路を継ぐだなんて言いふらして。
おかえりなさいの意味もこめられた食材の数々が、実際の重さよりもずっしり感じたのは気のせいではないはずだ。
「とんでもない犬ね……」
肩にぶらさがる大根、腕にかけられた里芋の袋と玉ねぎの袋、そして鮭がまるごと一本などなど。
ふらふらになりながら、竹林の小径を歩く。
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