6 山路の狛犬様

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 強い命令口調のメールだけど、父らしい文面でため息が出た。 「お見合いしないって言ったのに……」  ――今週末、指定された料亭に来いですって?  父の将軍ぶりは健在で、着物にしろとまで書いてある。  いったいどんな相手なのかと、思わなくてもだいたいわかる。  こうなると、父の仕事関係で気に入っている人間しかいない。  無駄だとは思うけど、お断りの返事を入れて返信しておいた。 「強引なんだから……」  せっかくいい気分だったのに、あっという間にしぼんでしまった。  食事を食べ終え、茶碗を洗っていると、玄関側にある厨房の小窓を誰かが叩いた。 「こんにちは。狛犬さんはいますか?」  その声は、昨日、だし巻き卵を買いに来たお客様、小学生の彩友(さゆ)ちゃんだった。  小窓を開けると、彩友ちゃんの編み込みした髪が見えた。  今日は小学校がお休みらしく、ランドセルではなく、手作りの手提げカバンを持っている。  女の子に人気のファンシーなキャラクターものの生地だった。 「あれ。お姉ちゃんだけ? 狛犬さんは眠ってるの?」 「そうよ。まだ明るいし、起きるのはたぶん夕方だと思うわ」
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