812人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
彩友ちゃんは五百円玉を置いて、大切そうに白い袋を抱え、竹林の小径を駆けていった。
「彩友ちゃんからもらうのは五百円って決まってるんだ」
「そうなの?」
「タダであげてたら、彩友ちゃんの母親がやってきて謝られて、そこで値段を決めた。彩友ちゃんがここにくるのは、ご飯のためだけじゃなく、安心できる場所だからだって」
――仕出し屋『山路』は安心できる場所。味もそうだ。食べてホッとするものでなくてはならない。
私にも彩友ちゃんと同じような時期があったから、その気持ちがわかる。
両親が忙しく、一人でいることが多かった子供時代。
でも、祖父の家に来れば、山路の広い庭で、近所の子供たちが遊んでいたし、必ず誰かが私といてくれた。
「開店準備をしよう」
狛犬は指で五百円玉をパチンと弾いて、キャッチすると貯金箱に入れる。
「あ、あの、ありがとう」
「いいよ。鮭をさばくのに早く起きるつもりだったし」
私が魚屋のおじさんからもらった鮭は丸々一本。
それもかなり大きくて、まな板からはみ出ていた。
鮭をどんっとまな板の上にのせ、手際よくさばいていく。
最初のコメントを投稿しよう!