7 竹の春

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 彩友ちゃんは五百円玉を置いて、大切そうに白い袋を抱え、竹林の小径を駆けていった。   「彩友ちゃんからもらうのは五百円って決まってるんだ」 「そうなの?」 「タダであげてたら、彩友ちゃんの母親がやってきて謝られて、そこで値段を決めた。彩友ちゃんがここにくるのは、ご飯のためだけじゃなく、安心できる場所だからだって」  ――仕出し屋『山路』は安心できる場所。味もそうだ。食べてホッとするものでなくてはならない。    私にも彩友ちゃんと同じような時期があったから、その気持ちがわかる。  両親が忙しく、一人でいることが多かった子供時代。  でも、祖父の家に来れば、山路の広い庭で、近所の子供たちが遊んでいたし、必ず誰かが私といてくれた。 「開店準備をしよう」  狛犬は指で五百円玉をパチンと弾いて、キャッチすると貯金箱に入れる。 「あ、あの、ありがとう」 「いいよ。鮭をさばくのに早く起きるつもりだったし」  私が魚屋のおじさんからもらった鮭は丸々一本。  それもかなり大きくて、まな板からはみ出ていた。  鮭をどんっとまな板の上にのせ、手際よくさばいていく。
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