7 竹の春

5/7

812人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
 私は子供の頃と同じように、食事用の椅子に座って、鮭が解体されるのを眺めていた。  切り身は塩と酒をふって焼く。  残りの切り身は、明日使う分として、酒粕と調味料が混ぜたものの中へ入れ、鮭の粕漬け焼きに。  みりんと醤油の合わせ調味料に柚子の皮を入れたものは幽庵焼きになる。  そして、残っていた大根、にんじんと買ってきた里芋、鮭のアラで粕汁を作る。  一切、無駄がなかった。 「味見する?」 「うん」    ここに座っていると、祖父は必ず私に味見をさせてくれる。  それも同じで、私はすっかり子供に戻ってしまっていた。  寒くなると、祖父が好んで作った粕汁。  懐かしい酒粕の香りに目を細めた。  「美味しい。体が暖まるわ」 「立栞が買ってきてくれた練り粕。これ使いやすいね」  今まで使ってなかったのか、物珍しげに練り粕のパッケージを眺めていた。   「板粕より便利だな」  祖父は冬になると味噌汁に少しだけ酒粕を加えていた。  体が暖まり、風邪をひきにくくなると言って。  ――やっぱり、おじいちゃんに似てる。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

812人が本棚に入れています
本棚に追加