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もしかしたら、おじいちゃんだけじゃなく、その先代もそうだったのかもしれない。
それくらい彼は山路に詳しくて、なんでも知っている気がした。
「あ、暖簾を出す時間だ」
「手伝うわ」
立ち上がり、暖簾を出し、店の入り口の電気をつける。
秋が深まるほど日暮れが早くなる。
お客様はこの明かりを目印に竹林の小径をやってくる。
――道の向うから私もやってきた。
金色の夕暮れの中、私と狛犬は並んで青々しい竹の小径を眺めた。
そして、あることに気づいた。
「秋になったら、他の木々の葉は紅葉するのに、竹は秋でも葉は緑のままなのね」
「竹は今が春だからね」
「え? そうなの?」
「竹の春って言葉がある。秋になって竹の青さが増すから、竹の春っていうんだ」
他と違っていても恥じることなく、まっすぐ天に向かって延びる竹は、迷いがなく堂々として見えた。
「今が春でもいいのね」
「そうだよ。今が始まりの時期でもいいと思う」
私の顔を狛犬がうかがう。
こんな役立たずで、なにもできない私なのに、いつかやってくるだろうと、山路を守りながら待っていてくれた。
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