7 竹の春

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「私がなにもできなかったの見たでしょ」 「なにもできてなかったわけじゃない」  言葉に彼の優しさを感じたけど、私は山路の主を名乗れない。  料理が作れない私では、祖父の跡を継げないと思った。 「うん。ありがとう。でも、もう少しだけ待って」  私がもう一度、厨房に立ち、彼のように作れるようになるまで、まだ時間が必要だ。 「わかった」  真面目な顔で狛犬は――狛犬ではない。  これからの私にとって、彼は目標であり、師匠である。   「まずは、私にあなたの名前を教えてくれる? これから一緒にやっていくなら、名前がわからないと不便でしょ?」 「これから……」  私がうなずくと、彼は初めて私に笑顔を見せた。 「俺の名は現比(ありひさ)」  笑った顔と名前で思い出した。  彼は――現比は私が幼い頃、一緒に遊んだ男の子だった。  子供の姿をして、子供たちに紛れていたのは、人の子ではなく狛犬。  もしかしたら、私が遊んでいた子供たちも人だったのか怪しいものだ。  どうやら、仕出し屋『山路』にいるのは、人間だけではなかったらしい――   【竹の春 了】
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