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コンッと竹のぶつかる音で振り仰ぐ――そこに誰かいるのかと思ったけれど、誰もいなかった。
祖父が亡くなって一年近く経つのに、家の周りには祖父の気配がまだ残っている気がして、つい姿を探してしまう。
「そうやって竹を眺める姿は、彪助そっくりだ」
同居人の狛犬、現比が看板の灯りをつけ終えて、竹の小径を戻ってきた。
仕出し屋『山路』の開店は陽が沈んでからと決まっていた。
現比が人の姿になれるのは、夜だからという理由でだ。
茶色の髪に瞳をした現比は、どこからどう見ても人間だけど、小径の途中にある小さな神社の狛犬である。
だから、今は神社に狛犬は不在で、神様はとても困っていると思う。
――なんて不良な狛犬。
「うん? 俺の顔になんかついてる?」
「目と鼻と口がついてるわ」
「そっか。よかった。つけ忘れてなくて」
などと、現比は狛犬にしか許されない高度な返しを繰り出してくる。
料理をしている時と違って、寝起きの現比はぼんやりしているから、うっかり顔のパーツをつけ忘れてもおかしくない。
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