1 母の誘い

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「昔はおじいちゃんとギンナンを拾いに行ったわ。茶碗蒸し、炊き込みご飯……。秋は食べるものがたくさんあるわね」  ギンナンは冬になったら、保存しておいたギンナンをフライパンで炒って、塩をかけて食べる。  緑色の実が香ばしくて、もっちりしていて美味しいのだ。  お酒のおつまみにもいい。 「栗はどこから手に入れたの?」 「ん? 友達が持ってきてくれた」  炊き立ての白いごはんに栗がたっぷり入っている。  お弁当にまで入るくらいの栗を拾うのも大変だし、この辺りに栗の木はない。  わざわざ遠くから栗を持ってきてくれるなんて、とても親切な友達だ。  淡い黄色に染まる贅沢なごはんを口に放り込む。  栗の実は口の中でほろほろ崩れ、優しい甘さだ。  自然の甘さが心を穏やかにし、体にいいものを食べているという気持ちにさせる。 「ねえ、現比の友達ってどんな人? 栗をこんなたくさん持ってきてくれるなんて、ありがたいわね」  今日のお弁当を買いに来るお客様は、こんな美味しい栗ごはんを食べられてラッキーだと思う。 「狸だよ」 「え?」 「狸。山の祠に住んでるんだ。今日、弁当を買いにくる」
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