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――蓮華楼かぁ。今なら、松茸が食べられるかも。
予約は半年待ちだし、お値段もなかなかで、私が気軽に行ける店ではない。
母は不動産会社の社長令嬢で、いまだ実家は母を娘扱いし、お小遣いを渡している。
父が嫌がるので、孫と美味しい物を食べてこいと、私が口実に使われることも多々ある。
そんなわけで、母が食事を誘ってくるのは珍しい話ではなかった。
体調も良かったし、日曜日は店も休みだから、たまにはと思って気楽に返事をした。
『いいよ。蓮華楼に行くの久しぶり。楽しみだね』
送信完了。
――さて。ごはんの続きをいただきましょう!
現比の作った料理は、私の心を穏やかにさせた。
平穏な日々――山路で暮らしていると、俗世を忘れる。
この時の私は本当に腑抜けていたと思う。
予約が取れない高級料亭と日曜日。
そして、母の呼び出し。
よく考えればわかったことだ。
拝金主義者の利益重視な父が、好条件のお見合い話を簡単に終わりにしてくれるわけがなかった。
私が蓮華楼にお見合いの場がセッティングされていると知ったのは、母に会って着物を手渡された時だった――
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