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――どうしてこんなことに。
今、私は蓮華楼の駐車場にいる。
母に騙されてお見合いに連れてこられたのである。
でも、私が悪い。
父がお見合い話を持ってきたことをすっかり忘れていたのである。
美味しい物が食べられると思い込んで、嬉々として実家に行くと、母に会うなり、笑顔で手渡された着物は秋らしい楓柄の小紋で薄黄色の落ち着いたもの。
今日、着ていく服は、実家に置いてあったセミフォーマルな服を着る予定にしていたのに、まさかの着物。
『これはおかしい』
日曜日にはゴルフへ行く父がいて、着物姿の母がいる。
嫌な予感しかないシチュエーションにピンときた。
これは私にお見合いさせるつもりだと気づき、慌てて着物を突き返した。
でも、母は着物を受けとらず、さめざめと泣き出した。
『最近の立栞ちゃんは、お父さんと仲が悪いでしょう? お母さんは悲しいわ。一度くらいお見合いしてもいいじゃない』
母は自分の父親を『お父様』と呼び、夫を『お父さん』と呼んで使い分けている。
娘の私より娘らしい母に困ってしまう。
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