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演技だとわかっていても、親に泣かれると気分が良くない。
『わかった! わかったから、泣かないで!』
そう言って、なんとか泣く母を宥めた。
結果、大喜びしたのは父で、意気揚々とした様子で連れてこられたお見合い場所の蓮華楼。
――私だって、お見合いじゃなかったら大喜びしていたわ。
老舗料亭の蓮華楼。
武家屋敷が並ぶ古い通りにある老舗料亭で、江戸の頃は武士たちが使ったという市内でも歴史ある特別な店である。
蓮華楼は世間の評判に驕ることなく、優秀な料理人を出し続けている名店だ。
「さすが、母さんだ! 母さんに立栞を任せて正解だったな。まったく、誰に似たのか頑固で融通がきかない娘で困る」
「まあ、あなた。立栞ちゃんは優しくていい子ですよ」
二人の会話を聞いて、ゲンナリした。
母は私をいい子だと口では言ってるけど、我が手柄という顔をしているし、父のほうは自分の考えが通って満足そうである。
さしずめ、敵の首をとった武将と手柄を褒める将軍というところ……
「お見合い相手に失礼のないようにな」
「立栞ちゃん、大丈夫。にこにこしていればいいだけよ」
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