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仕事を辞めて数か月。
なにをするわけでもなく、ただ鬱々とした日々を送っていた。
――どんなに頑張っても、意味がなかった。
そんな負の感情から抜け出せないまま、すでに季節は秋。
街路樹の葉が地面に落ち、靴底が葉を踏むたびに音を鳴らす。
手にスーパーのお惣菜と日用品が入った袋を持ち、アパートへの帰り道を歩いていた私の目に『派遣スタッフ募集』『急募アルバイト』という文字が飛び込んでくる。
働かなければと焦っているせいか、どうしても目がそっちにいってしまう。
料亭『吉浪』を辞めてから、私はずっと無職だ。
実家に帰るのも億劫で、最近は帰っていない。
無職独身への風当たりはビュンビュン強い。
台風並みである。
それこそ、強風で飛んできた看板に『お見合い結婚してもいいんだぞ』という父の言葉がデカデカと目に入るくらい、父は働かないなら結婚しろを繰り返してくるのだ。
母は母で、『お見合い結婚も悪くないわよ。一度、会ってみたら?』とやんわり勧めてくる。
減っていく貯金残高と精神的なゆとり。
「私、いつまでこうしているんだろう……」
自分の手をじっと眺めた。
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