2 お見合い

5/10

814人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
「料理長にも美味しかったとお伝えください」 「まあ、ありがとうございます。ぜひ、またいらしてくださいませ」  入り口では食事を終えた人が、女将とおしゃべりを楽しんでいた。  女将は私たちに気づき、軽く頭を下げて目礼(もくれい)し、話していたお客様にを見送ると、私たちを笑顔で迎えた。   「山路(やまじ)社長。奥様。立栞さん。お久しぶりですね。いらっしゃいませ」    祖父と懇意なだけあって、家族全員が顔見知りだ。  それだけじゃなく、蓮華楼の娘は私の幼馴染みで仲がいい。 「忙しい日に個室ひとつ貸しきって申し訳ない」 「いいえ。立栞さんの大事な日と聞きましたし、先方様も特別な方です。料理長も緊張されてましたわ」 「ははは、そんなことはないでしょう。なあ、母さん?」 「ええ。とても評判がよろしくて……」  両親と女将のおしゃべりはしばらく続きそうだ。  待ち合わせ時間より、早めに出てきたのは、この時間を考えてのことだろう。  最近の食材がどうの、料理人の腕がああだのと――吉浪(よしなみ)を辞めた私にとって、居心地の悪い話が続く。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

814人が本棚に入れています
本棚に追加