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「料理長にも美味しかったとお伝えください」
「まあ、ありがとうございます。ぜひ、またいらしてくださいませ」
入り口では食事を終えた人が、女将とおしゃべりを楽しんでいた。
女将は私たちに気づき、軽く頭を下げて目礼し、話していたお客様にを見送ると、私たちを笑顔で迎えた。
「山路社長。奥様。立栞さん。お久しぶりですね。いらっしゃいませ」
祖父と懇意なだけあって、家族全員が顔見知りだ。
それだけじゃなく、蓮華楼の娘は私の幼馴染みで仲がいい。
「忙しい日に個室ひとつ貸しきって申し訳ない」
「いいえ。立栞さんの大事な日と聞きましたし、先方様も特別な方です。料理長も緊張されてましたわ」
「ははは、そんなことはないでしょう。なあ、母さん?」
「ええ。とても評判がよろしくて……」
両親と女将のおしゃべりはしばらく続きそうだ。
待ち合わせ時間より、早めに出てきたのは、この時間を考えてのことだろう。
最近の食材がどうの、料理人の腕がああだのと――吉浪を辞めた私にとって、居心地の悪い話が続く。
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