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こんなことなら、あの日、食べに行くなんて返事をしなければよかった。
頭痛がして、そっと額に手をあてた。
――体調が万全じゃないってわかってるはずなのに。
体裁を整えるための着物も辛く、人と接するのも息苦しい。
それでも、私は作り笑いを浮かべていた。
この感覚は吉浪の頃と同じ。
手に汗がにじんだ時、店の外から声がした。
「立栞! こっち!」
振り返ると、白のシャツに黒のロングカーディガンを羽織り、ジーンズをはいたモデル並みのスタイルをした幼馴染みが手招きしていた。
蓮華楼には相応しくないラフな服装をし、庭の石の陰から手招きする美人――私の幼馴染みの蓮華早耶音がいた。
店と苗字の読み方が違い、店は蓮華で、苗字は蓮華。
少しややこしい。
「沙耶音。なにしてるの!? 多慶子おばさんに叱られるわよ?」
「わかってる。だから、そっと立栞を呼んだのよ」
「仕事はいいの?」
「平気。お座敷に呼ばれてるのは夜だから、まだ余裕があるわ」
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