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早耶音は芸者で、料亭などに呼ばれて舞いを披露したり、三味線を弾いたりしている。
『蓮華楼の娘が、芸妓を?』と思われるかもしれないが、蓮華楼の女将は元芸妓で、母がやっていた仕事に興味を持った早耶音は芸妓になった。
蓮華楼はすでに早耶音の兄が嫁をもらって、継いでいるから安泰なのであろうが、早耶音のほうは私と同じ独身である。
「お見合いだって本当!? まさか結婚するの?」
――あ、そっち?
私を救出してくれたんだと思ったら、早耶音が気になっているのは、私の結婚話らしい。
「泣き落としされて、ここに連行されたのよ」
「うちの店を刑務所みたいに言わないで。ふーん。そう。てっきり、結婚前提のお見合いだと思ったわ」
「さすがにそれは急展開すぎるでしょ」
早耶音に笑うと、向こうは真顔で否定した。
「なに言ってるの。私たちは二十六歳。結婚してもおかしくないのよ」
早耶音が長い黒髪をかきあげると、薄い化粧をした顔がはっきり見えた。
すらりとした体型で、整った美貌の持ち主の沙耶音は、モテないわけがないのだが、いわゆる『高嶺の花』というやつで、気軽に声をかけれる男性は少ない。
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