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早耶音はやばいと思ったのか、慌てて庭の木にサッと姿を隠して逃げていった。
――なにしてるの。
蓮華楼の娘で人気芸妓が、泥棒みたいに逃げていく姿を誰が想像するだろう。
「庭を見ていたの」
「蓮華楼さんはお庭も立派よねぇ~。わかるわぁ」
母は蓮華楼の庭を褒めたけど、父のほうは庭にまったく興味がないらしく、ふーんと言っただけだった。
「ご案内しますわ。どうぞ、こちらへ」
早耶音の母親である女将は、私たちを先導する
女将が廊下に膝をつき、声をかける。
「失礼します」
すでにお見合い相手が到着し、待たせてしまっていたようだ。
こちらも早かったけど、向こうもずいぶん早い。
女将は両手で襖戸に触れ、そっと開ける。
「山路さん。よく来てくださいましたね」
「いや、どうも。今日は仲人を頼まれた吉浪の親戚の者です。すみませんねぇ。本家は忙しくしていまして」
――今、なんて言ったの? 吉浪と言わなかった?
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