真夜中の仕出し屋さん～料理上手な狛犬様と暮らすことになりました～

3 決められていた結婚相手

　いつもなら出てきたなり、大喜びしていただく料理も箸をつけれず、もう帰ってしまいたい気分だった。
　父の顔を見ると、満面の笑みで永祥さんとの会話を楽しんでいる。

「娘はよほど吉浪さんでの仕事が楽しかったのか、なかなか次の仕事をしたがらないんですよ」
「立栞さんは吉浪を気に入ってくれていたのかな。こちらも辞めると聞いた時は、とても残念でした」

　私が辞めると言った時、永祥さんはムッとした顔をしていたのを思い出す。
　あれは、私が接客係を断ったからじゃなく、妻になる予定だった私が、女将になる道を拒否したからだ。
　両親と吉浪の間で、私が吉浪に嫁ぐ話が出ているとは知らなかった私。
　女将を断るということは、永祥さんとの結婚を遠回しにお断りしたというのと同じだったのだ。
　それで、恥をかかされた永祥さんはお見合いの場を設け、結婚を改めて申し込んだというわけらしい。

　――逃げられない状況を作って？　どれだけ腹黒いの。

　怒りがふつふつとわいてきた。
　勝手に私の人生を決めて、陰で画策してたなんてあんまりだ。
　そんな相手と結婚なんて冗談ではない。