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「永祥さん。吉浪を辞める時にも言いましたが、私は料理人です。接客係にもならないし、あなたの妻にもなる気はありません」
きっぱりお断りした。
両親と仲人さんは驚いていたけど、永祥さんは驚かない。
私から断られることが予想できていたようで、笑顔のままだった。
本人がわかっているなら話は早い。
「吉浪ではいい経験をさせていただきました。今後はこの経験を生かして働くつもりです」
「立栞ちゃん、働くって……」
私がまだ料理人としての道を諦めていないとわかった母はうろたえた。
父は扇切りにしたナスの天ぷらを箸でつかんだまま、固まっている。
ようやく、娘の言葉を聞いてくれたようだ。
怒りながら、並んだ料理を口にした。
しっかり見ずに口に入れたから、食べてから違和感に気づいた。
――あれ? 芋ようかん?
蓮華楼は素材の味を大事にする店で、芋ようかんとは珍しい。
出すこともあるだろうけど、私のイメージでは輪切りにした芋の甘煮が出るはずで、秋なら芋の金色を生かして月のように見立てる。
違和感を覚えつつ、他の料理もいただいた。
「立栞さんはどこで働くつもりでしょう?」
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