3 決められていた結婚相手

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「まだ決めてませんが、ゆくゆくは山路を……祖父の跡を継ぐつもりです」 「なにを言っている!」  父がやっと口を開いた。 「もちろん、今すぐではありません。私はまだ半人前ですから、これから経験を積み、祖父がいた時のような山路にしたいと思っています」 「面白い冗談ですね」 「冗談?」  永祥さんは私を笑う。 「噂で聞いたのですが、立栞さんは料理を作れなくなったとか」  ――なぜそれを。    誰にも言わずにいたことだ。  体調が悪かったのもあるけど、両親にも沙耶音にも料理を作れなくなったことは言ってない。 「市内では噂好きな人間が大勢いますからね。山路の孫娘が買い物をしていれば、すぐにわかります。行きつけの八百屋や魚屋に顔を出さずに、コンビニやスーパーの総菜を買っているとかね」  料理の練習も兼ね、自炊していた私が急に食材を買わなくなった。  出会った時、なぜ店に来ないのかと尋ねられ、うまく言い訳したつもりが見抜かれたようだ。  食事はほとんどコンビニかスーパーの総菜を買っていれば、なにかおかしいと思われて当然。
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