3 決められていた結婚相手

7/8

815人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
 ――料理を作っていない。もしくは、作れないという噂が流れたということ。 「立栞。それは本当なのか」 「立栞ちゃん……」  心配する両親に対し、すぐに返事ができなかった。   「そ、それは……」 「事実のようですね」  慌てる私をよそに永祥さんは涼しい顔をし、かぶら蒸しが入った椀を手にする。 「蓮華楼さんはどれを食べても上品で美味しい。ここの料理を食べると、吉浪も頑張らなくてはという気持ちにさせてくれる」  父がこほんと咳払いした。 「親父の跡を継ぐとお前は言うが、料理も作れず、結婚もしないで一人でやっていけるわけがない」 「立栞ちゃん、お父さんの言う通りです。女一人が店を持つということは大変なことよ」    永祥さんが笑顔の理由がわかった。  私が料理を作れないという切り札を持っていて、両親が私に結婚しろと言うのを見越していたのだ。 「料理の作れない料理人を雇う店はありませんよ。それに吉浪で働いてわかったでしょう? 孤立していたのを忘れましたか?」  私が料理人であることを徹底的に否定し、諦めさせようとする永祥さんをにらんだ。 「ええ。よくわかりました」
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

815人が本棚に入れています
本棚に追加