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――料理を作っていない。もしくは、作れないという噂が流れたということ。
「立栞。それは本当なのか」
「立栞ちゃん……」
心配する両親に対し、すぐに返事ができなかった。
「そ、それは……」
「事実のようですね」
慌てる私をよそに永祥さんは涼しい顔をし、かぶら蒸しが入った椀を手にする。
「蓮華楼さんはどれを食べても上品で美味しい。ここの料理を食べると、吉浪も頑張らなくてはという気持ちにさせてくれる」
父がこほんと咳払いした。
「親父の跡を継ぐとお前は言うが、料理も作れず、結婚もしないで一人でやっていけるわけがない」
「立栞ちゃん、お父さんの言う通りです。女一人が店を持つということは大変なことよ」
永祥さんが笑顔の理由がわかった。
私が料理を作れないという切り札を持っていて、両親が私に結婚しろと言うのを見越していたのだ。
「料理の作れない料理人を雇う店はありませんよ。それに吉浪で働いてわかったでしょう? 孤立していたのを忘れましたか?」
私が料理人であることを徹底的に否定し、諦めさせようとする永祥さんをにらんだ。
「ええ。よくわかりました」
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