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「り、り、立栞ちゃん? それって、同棲している男の人がいるってこと!? 待って? 女性の料理人という可能性もあるわ」
復活は母が一番早かった。
「そうです。男性と同居しています」
――嘘ではない。人ではなく、犬というのは秘密だ。
追及される前に帰ろうと、着物の裾を手でおさえ、膝をたてて、すばやく立ち上がる。
「待て! 男を連れ込むとはどういうことだ。そもそも、そいつはどんな男だっ!」
もう見合いどころではないという父の様子に、仲人さんもうろたえていた。
「許さんぞ! 家に戻れ! 今すぐにだ!」
場を壊して申し訳ないとは思うけど、一度怒りだした父を誰もどうにもできない。
「お父さんも知ってると思うわ」
「む!?」
なにしろ、初代から知っているのだから、父も一度くらい会っているはずだ。
「知っているだと?」
父はうーんと首を傾げ、考え込んでいるのを見て、今のうちに帰ろうと襖戸の前に立つ。
「こら、立栞っ! 待て!」
私が襖戸を開けようとした瞬間、勝手に戸が開き、私の手は空振りした。
それは父に止められたわけではなく――
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