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「やあ。清介」
――狛犬登場。ただし、人の姿で。
現代風にしようとしたのか、パーカー姿で登場した。
でも、現比は、うっかり店に迷い込んだとしか思えない格好で、蓮華楼の雰囲気に溶け込んでない。
狛犬というだけで怪しいのに、ますます怪しく見えた。
「蓮華楼に叱られるわ。叱られる前に帰るわよ!」
だらしない格好は店の雰囲気を台無しにすると言われ、娘の沙耶音がジーンズで姿を見せるだけで叱られるのだ。
つまみだされるかもしれない。
犬だし……
「俺を蓮華楼が叱る?」
いつもぼんやりしている現比なのに、今日は違っていた。
父を見ると、現比を指さし、口をパクパクさせている。
「り、り、立栞。そいつはっ……いや、こ、こ……」
「清介も偉くなったものだ」
柱に寄りかかり、現比は笑う。
その顔は大学生というより、永い時を生きた者だけが持つ威圧感があった。
若いはずなのに若くない――その不気味な空気を永祥さんも感じ取ったのか、黙って現比の様子をうかがう。
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