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「冷静になったほうがいい。山路の店が昔のように流行ることはない」
山路と同じ市内に仕出し屋を営んでいた吉浪は、経営が厳しい頃があった。
吉浪は店を大きくし、山路は店を小さくして、その苦境を乗り切った。
「山路は終わる」
現比の顔が険しくなった。
気のせいでなければ、父の表情も硬い。
父はファミリー向けの飲食チェーンを成功させて、店の名も『山路』を名乗っている。
父なりに店を残そうと思ったのだろう。
けれど、吉浪や蓮華楼は、父の店を山路として認めていない。
「古臭い店にしがみつくつもりか? 馬鹿馬鹿しい!」
現比の存在が、永祥さんのプライドを傷つけたらしく、さっきまで穏やかだったのに語気が荒くなった。
祖父の店を――山路を馬鹿にされて黙っている私ではない。
「山路は古臭い店ではなく、変わらない店なんです。変わらず、そこに山路があるから、お客様は安心する。そういう店もあるんです」
私がそうだったように、変わらない山路に安心する人もいる。
甘くてどっしりとした山路のだし巻き卵を思い出す。
――古いから終わる。そんなことはない。
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