4 犬は知っている

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「冷静になったほうがいい。山路の店が昔のように流行ることはない」  山路と同じ市内に仕出し屋を営んでいた吉浪は、経営が厳しい頃があった。  吉浪は店を大きくし、山路は店を小さくして、その苦境を乗り切った。   「山路は終わる」  現比の顔が険しくなった。  気のせいでなければ、父の表情も硬い。  父はファミリー向けの飲食チェーンを成功させて、店の名も『山路』を名乗っている。  父なりに店を残そうと思ったのだろう。  けれど、吉浪や蓮華楼は、父の店を山路として認めていない。 「古臭い店にしがみつくつもりか? 馬鹿馬鹿しい!」  現比の存在が、永祥さんのプライドを傷つけたらしく、さっきまで穏やかだったのに語気が荒くなった。  祖父の店を――山路を馬鹿にされて黙っている私ではない。 「山路は古臭い店ではなく、変わらない店なんです。変わらず、そこに山路があるから、お客様は安心する。そういう店もあるんです」  私がそうだったように、変わらない山路に安心する人もいる。  甘くてどっしりとした山路のだし巻き卵を思い出す。  ――古いから終わる。そんなことはない。  
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