カラオケ大会

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カラオケ大会

翌日の深夜にカラオケ大会が開催された。観客がステージを何重にも取り囲む。会場は盛り上がり、熱気に溢れていた。ところどころにユラユラと揺れる炎も見える。 「次はエントリーナンバー9番、松木さんです」 「松木ーっ!」 「まーつーきー!」 「頑張れー!」 地獄の底から響くような声援が上がり、満を持して松木はステージに登場した。松木は観客に手を振り、余裕の振る舞いだ。やがてイントロが流れる。すると、司会者が事故紹介(じこしょうかい)を始めた。 「松木さんはたまたま行った旅行先で露天風呂に入ったとき、隣の女湯を覗こうと岩場を登り、もう少しで見えると思った瞬間、足を滑らせ転落して地面に頭を強打。何とか立ち上がるもメマイでふらつき、再び後方に転倒。床に落ちていた石鹸の角に頭をぶつけ、不運にも打ちどころが悪く、そのまま亡くなった可哀想な経歴の持ち主。気がついたときは天国から地獄へ真っ逆さま。結果ばかりに気を取られ、その瞬間を楽しめない男。夢じゃなかったあれもこれも。さあ、ウルトラソウルです。どうぞ!」 羞恥心というものを現世に置き忘れてきた松木は司会者の事故紹介に恥ずしさを微塵も感じさせず、堂々とステージに立ち、格好つけてマイクを握り、歌い出した。 「どんだけがんばりゃいい♪ 誰かのためなの? 分かっているのに決意は揺らぐ 結果ばかりに気を取られ この瞬間を楽しめない メマイ♪ 夢じゃな〜い あれもこれもー♪ その手でドアを開けましょう♪ 祝福がほしいならー 悲しみを知り 独りで泣きましょう♪ そして 輝〜く ウルトラソウルっ ヘイ♪」 「「「うおーっ!」」」 観客は熱狂の渦に包まれた。
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