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「神楽君、可哀相」
しかし、その顔は明らかに、全然可哀相だと思っていないことを告げていた。
SHRが終わってすぐの休み時間。私の席に来たヒトミに、私はさっきのことを話してみた。
それに対してヒトミが返してきた感想が、それだった。
「ヒトミ、顔が笑ってる」
「だって、あかねちゃんの言うとおりじゃない。神楽君ってちっとも男の子らしくないよね」
まぁ、確かにそうだよね。顔は幼いし、手足は細いし、肌もきめ細やかだし。おまけに本ばっかり読んでて運動も全く出来ない。
「でも、なんか頭は良さそうだよね」
それは違うな、と私は思った。入学日の翌日に行われた実力テストの結果が戻ってきたとき、私は彼の横を通りながらその点数を見てみたけれど、それは私の半分にも満たない数値を示していた。勉強がまるで出来ない私なんかよりも更に点が低かったのだから、彼は頭も悪いらしい。
「ダメじゃない。彼のこと好きなんでしょ? 悪く言っちゃ可哀相よ」
「そんなこと言ったって、事実だし」
そう正直に答えて、私は神楽君のほうに顔を向ける。
神楽君はこちらの方に顔を向けており、私の視線に気がつくと慌てたように顔を前に戻し、気まずく感じたのだろうか、顔を机に伏せてしまった。
「ねぇ、告白とかしないの?」
ヒトミが突然、そんな事を訊いてきた。
告白ねぇ、
「したよ」
「え、嘘、マジ?」
ヒトミは目を真ん丸く見開いて驚く。
なに? その表情は。告白したらダメなわけ?
「それで、どうなったの? まさか、フラれちゃった?」
失礼な事を言う。こんなに美人で可愛い私がフラれる訳ないでしょ、と言ってやりたかったが自意識過剰はよろしくないと思い、
「あっちも私のことが好きだったんだってさ」
「で、まさか、付き合うことに」
「したよ。キスもした。二回」
「ええぇぇぇぇっ!?」
ヒトミの叫び声が教室内にこだまする。正直言って煩い。
ヒトミは何に対して驚いたんだろう。私が神楽君と付き合うことになったこと? それともキスをした事?
「両方よ!」
とヒトミは首を横に振りながら、
「ありえない。絶対にありえない!」
「そんなこと言ったって、しちゃったんだもん」
しかも、二回とも私から彼にキスをしたのだ。一回目は自白の為に強引に。二回目は愛情表現として。確かに普段の私からは想像もつかないほど積極的過ぎる事だったかもしれないけれど、私だって恋には積極的になれるのだ。
「もう、なんであんな奴なんかと!?」
「失礼ね。あんな奴だなんて」
「だってどう見たってオタクよ!? オタクに恋するだけじゃなくて、自分からそのオタクにキスをするあかねちゃんが私には信じられないわ」
何が言いたいのだ、ヒトミは。日本のオタク文化を馬鹿にするだなんて、なんて時代遅れ! そんなの一昔も二昔も前の盲信よ! オタクは日本の誇るべきサブカルチャーなのよ!
八割方『人』としてどうかって気もするけど(それも言い過ぎか)。
「はぁ、そっか。あかねちゃんのファーストキスは神楽君のものになっちゃったか」
「いいじゃない、別に。このまま処女も捨てちゃおうか?」
思い切って言ってやったら、ヒトミは慌てて手を左右に振りながら、
「な、何言ってるのよ、あかねちゃん! そんな、安売りなんかしちゃぁ!」
どういう意味よ、それ。
「とにかく、さっさと神楽君とは別れちゃうべきね」
そこまで言いますか。
「言うわよ」
やれやれ、と私は肩を落とした。
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