風に舞う妖精

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 いつもうまくいくってわけではないけれど、二回に一回くらいは靴にくっつける。  でも、靴の寝床があるお家に行くのは、そう簡単なことじゃない。  何度靴にくっついても、なかなか寝床に辿りつけないの。  もう、何十回も空振りをしてる。  実は昨日、ついに寝床に行けたの。  だけど、そこはとにかく臭くて、空気が淀んで、狭苦しくて、吐きそうだった。  靴から離れられるようになったら、少しでも広い所へ、少しでもいい空気の所へって、ヨロヨロと歩いた。  次に寝床の扉が開いた時、扉が巻き起こす風に乗って外へ飛び出した。「ああ、天国!」って思った。  そのくらい、ひどい寝床だったの。  だから、寝床に行ければそれでいいんじゃないって、気づいた。  最高の場所に行って、地に足をつけて、踊りたい。  そんな夢に、なかなか手が届かない。  ふわふわと風に流されながら、道行く人の洋服を避けるために、バタバタと手足を動かした。  こんなダンスは、もう嫌だ。  楽園みたいなところで、もっときれいな、お姫様みたいなダンスを踊りたい。  ――バタバタバタ、バタバタバタ――  あっちのお姉さんの足がいい。  ああ、でも、失敗。  なんでこんな時に、ビュウって強い風が吹くんだよ。  ああ、あの男の子だ。あの男の子が、ビュン、ってボールを蹴るみたいに、足を動かしたからだ!  そこにボールなんて、ないのにさ。いったい、何を蹴ったんだよ、もう。  ああ、でも、もしかして……。  人間にあたしたちのことが見えないみたいに、あたしたちに見えなくて、人間には見えるものって、あるのかな。  あの男の子は、実は本当に、何かを蹴っていたりとか、するのかな。    あたしが次にピトッとつきたいと思ったのは、お兄さんの足だった。  ピカピカの黒い靴。きっと、毎日磨いてるんだと思う。  あんなに丁寧に磨く人なら、靴の寝床だって綺麗なはずだ。  ――ピトッ――  よし! こんどはちゃんと、くっつけた!  いい寝床に、行けますように!    だけど、あたしは寝床に行けなかった。  お兄さんは、靴を丁寧に扱うけれど、靴を靴の寝床に寝かせる人じゃなかったんだ。  玄関に、揃えておくだけ。  これじゃあ、ダメだ。  地獄じゃないけど、天国でもない。楽園でもない。ただの、ちょっと快適な場所だ。  あたしは、何度も何度も、挑戦を繰り返した。  そして、何度も何度も、失敗した。  心がもう折れかけて、とっても重たくなった。  心が重たくなったからなのか、風に吹かれてもうまく飛べなくなった。  靴の寝床が最高の場所って知らなければ、こんなことにはならなかっただろうな。  こんなことなら、知りたくなかったな。  ただ、風に流されて、ふわふわと生きていたかったな。  ――くるるん、ピトッ――  ぼーっとしていたら、あたしはいつの間にか、ゆっくり歩く足にくっついていた。  その足の主は、おばあちゃんだった。  ゆっくりゆっくり歩く足のつま先で、あたしはゆらゆらと心地よく揺られながら、世界を見た。  足が痛いのかなぁ。腰が痛いのかなぁ。  なんでこんなに、ゆっくりなんだろう。
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