風に舞う妖精

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 あたしは、妖精。  あたしたちのことは、人間の目には映らない。  でも、あたしの気配を感じることができる人が、この世の中にはいるみたい。  ときどき、ふと、気づかれたって感じることがある。  だけど、目に見えないからか、捕まえられたことはない。  人間にも、使う言葉とか、肌の色とか、いろんな違いがあると思う。  実はね、妖精にもいろんな違いがあるんだ。  体の大きさがバラバラだったり、羽があったり、なかったり。  あたしは羽が欲しかったけれど、残念なことに、羽はない。  まぁ、仕方がないよね。そういうふうに生まれちゃったんだもん。  ないものはない。生えないものは生えない。そう、受け入れるしかないんだ。    あたしには羽がないけど、空は飛べる。  小さくて軽いから、ふわふわと風に乗ることができるんだ。  まぁ、物は言いようってやつでさ、本当のところは、いつもいつも風に飛ばされてるってだけなんだけどね。  そんな、ふわふわと風に乗って移動するあたしたちには、ひとつ、気をつけないといけないことがある。  それは、人の服についてはいけないってこと。  あたしたちは、何かにくっつくと、何時間も離れられなくなっちゃうの。  別に、ねばねばした何かを出したりしているわけじゃないんだよ?  だけど、なんか、ピトッてくっついちゃうんだ。  これは、たぶん、遠くに行きすぎないようにって、体が進化したからなんだと思う。  世界に比べて、自分たちが生きられる世界は狭いから。だから、生きられる場所から出ていくことがないようにっていう、体の抵抗なんだと思う。  こんな体だから、服にくっついたまま洗濯機に入れられちゃうことがある。そんな時、逃げられないから、ただ目を回すしかない。目を回すだけで済んだらいい方だ。怪我をすることだってある。  ふわふわと風に乗りながら、「あ、服についちゃう!」って思った時は、手と足をバタバタさせる。  そうしたら、ちょっとは進む先を変えられる。服以外なら、だいたい何とかなる。  髪の毛とか身体とかなら、ゴシゴシされて、水に流されるだけ。そのくらいなら、耐えられる。  カバンについたら、けっこうラッキー。離れられるようになるまで、じっとそこにいればいいだけだから。  それでね。一番いいのは、靴につくこと。  あたしはまだ、行けたことがないんだけど、靴には靴専用の寝床があるらしいの。  前に、靴の寝床に行ったことがある妖精に、話を聞いてみたことがある。  その妖精は、『最高の場所だった』って、言ってた。『あの部屋には、風がないんだ。風がないって、素晴らしい。あそこは、楽園だ!』って、言ってた。  その場所にいる間に体がぽろんと取れるから、そこへ行けば、あたしたちもそこで眠ることができる。眠り続けることができる。  憧れる。風のない世界に憧れる。  だって、風のない世界って、すごいんだ!  きっと、小さくて軽いあたしたちでも、風がない場所なら、ダンスを踊ることだって出来ちゃうはず!  だから、あたしはいつも、靴にくっつくことを目標にしてる。  この靴の人のお家に、素敵な靴の寝床がありますようにって祈りながら、靴にくっつこうと頑張ってる。
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