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「ねぇパパ、ぼく、ずっとこの暮らしをしたいなぁ」
夏休みに家族でキャンプに行ったらとっても楽しくて、
焚き火の火をいじりながら僕は言った。
「そうだな…引っ越すか!」
この家は、パパのノリで物事が動く。
楽しければOK。
困ったら、その時考える。
キャンプから帰宅すると、パパはインターネットを駆使して山林探しを始めた。
会社に通えそうな場所に、手頃なサイズの山林がないものか。
ママが小言をいう。
「ねえ。
電気やガスはキャンプ道具でなんとかするとして、水道とか下水とか、どうするのよ。」
山林に水を通すのは難しいらしいのだ。
別荘地に隣接するような、都合の良い山林でもあれば良いのだが、そんな場所は、見つかったとしても簡単に買える値段ではないみたい。
「トイレのたびに公園や道の駅まで行くのは大変よ…」
とママが言う。
「ぼく、思いついた!キャンプ場に住み続けるってのはどうかな?」
「さすがに定住させてくれないと思うけど…1泊5000円として、場所代水道代で1ヶ月15万か…」
パパが急にリアルな数字を出してきた。
ママが、更に畳み掛ける。
「あなた、スーツとかどこに保管するのよ?燻り臭くなるよ?」
「スーツの日は一旦自宅に帰ればいいじゃん」
「そうだね。バッテリーの充電もしないといけないしね。あ!いいこと思いついた!」
僕は、ポンと手を打った。
「庭にテント張るんだよ!庭に引っ越す!」
「そうか!水道風呂トイレ電源完備じゃん!」
パパが笑顔になった。
「ぼく、一人でキャンプをやってみたいんだ」
と言ったら、パパがソロテントを貸してくれた。
翌日の夕方。
僕は、一人で庭に引越しをした。
お気に入りのキャンプチェアを組み立て、テーブルやミニコンロを並べた。
「管理人さん〜、火を起こすから、見てて!」
管理人さんは、パパだ。
庭だから、小さな小さなコンロで、小さな小さな焚き火をするのはとても難しかったが、マッチやライターを使わずにファイアースターターから飛ばした火花から火を起こせたので、どんなもんだい!と誇らしくなった。
それから、ご飯を炊き、炭火も熾して肉を焼いた。肉はママが用意してくれた。
「ご近所さんに迷惑だから」
と、布団や洗濯物がでていない時間帯に火を使い、ひとしきり楽んだら、もうすっかり夜だった。
管理棟という名の家に入り、歯を磨き、シャワーを浴びて、パジャマに着替えて、テントに戻り、寝袋に潜り込んだ。
夜中に、大雨が降った。
浸水はしなかったが、心細かった。得意げにテントで寝たはずなのに、みんなはお家のベッドで寝てるというのが寂しかった。
翌朝は、カラッと晴れた。
テントから出て、体を伸ばしていたら
管理人さんが来た。
「おはよう。夜の雨、酷かったな。大丈夫だったか?」
「雨自体は平気だったよ。けど…
キャンプは一人でやりたいけど、ずっと一人で居たいわけじゃなかったんだな…」
一人で引っ越すのは、やめよう。
僕は、道具を片付けて、テントを畳んだ。
大人になって、ソロキャンプを一緒にやる仲間ができたら、引越ししてもいいかもしれないな、と思った。
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