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玄関のドアを開ける前に「いってくるー」と声を掛けて外へ出る。軒下に置いている自転車のサドルに座りペダルに足をのせる。(おはよう!今日も安全運転するしヨロシクやで)と心で相棒に声を掛け、ペダルを踏込む。
♪あー
遙々行くで
高校へー
あーなたと食べたいお弁当ー
自転車に乗って、声を大にして願望を替歌にして歌いながら毎日通学する。
🥁🔔🥁🔔🥁
正門を通って自転車置場に向かう時、願望替歌から必ずこの歌を歌う。
♪やきすきざまや
まさかさまさかさまさかさ
むよむよむよむよむよ
気づいてや
隠されたメッセージ
卒業までにはきづくかな?
やきすいだきざまや
呪文違うでー
これはラブゾングー
「おはよう、山下さん」
「むよむよむよ...あっ、おはよう、山崎君」
自転車を止めながら、歌いながら、3年間同じクラスで自転車通学の山崎君に挨拶を返す。
「呪文の歌、よう毎日歌ってんなぁ」
「聞き捨てならへん…呪文の歌と違う。ラブソング!愛の歌!毎日歌いたい歌やねん」
「歌いたいって、なんか、呪いの呪文に聞こえるんやけど…。最初...1年の1学期は歌ってへんかったやんな?」
「うん」
「確か、1年の夏休み明けからやんな?」
「うん」
「今、3年の夏休み前やし、もうちょっとで丸2年?」
「うん」
「なんで毎日歌ってんの?」
「き、急になんでそんな事聞くん?今までそんな事聞いたことないやん」
「うん?前から何となく気になっててん」
喋りながら一緒に教室に向かう。『何となく』の言葉で思い出す。
「あっ!何となく繋がりやねんけど、この間計算してん。山崎君と1週間に朝一緒になる確率...偶然、よく朝一緒になるし、何となく気になっててんやんか」
急に山崎くんの顔が赤くなる。
「山崎くん、大丈夫?顔赤くなったけど」
「...大丈夫や...話続けてや?」
「う、うん。えっと、一緒になる確率3.8回やってん」
「3.8回...○○○○○○○○○○○あかんなぁ」とぼそっと呟いた山崎くん。よく聞こえなくて訪ねる。
「何があかんの?」
「うん?いや、あかんのはこっちの話。あの...いっつも歌ってる歌、ちゃんと意味あるんやんな?」
「勿論や!」
「ヒント教えてもらえへん?」
「ヒ、ヒント?」
「うん」
「ヒントか...」
「うん」
「なんで急にヒント?」
「ん?朝一緒になったら必ず歌ってるやんか。最近なんか気になる様なならへん様な...」
「まじか」
「えっ?なんか言った?」
「ううん...えーっと、分かった。歌詞書いて1学期の終業式終了後のホームルーム終わって帰る時渡すわ」
「ありがとう。楽しみにしとくわ...でもなんで3日後?」
「...えっ...なんでって?それは、自己都合?」
ふと少し遠くに視線を向けると教室の入口が見えた。
「あっ!今日1時間目の国語、小テストやん!やばい!勉強するの忘れてたー!ごめん!山崎君、先行くわー」
と私は逃げるように教室へ走った。
「えっ?山下さん?今日の1時間目数学やで」
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