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第11話 特別なレシピ
ガブリエルの観察を始めてから、特にこれといった収穫もなく時だけが過ぎていった。
今日は、朝から城の使用人たちがみんな忙しなく働いている。
今晩、舞踏会がこの城で行われるためである。
各国から王族を始め、貴族のご令息やご令嬢が参加するという盛大な催しだ。
私も大広間や、別室の清掃に奔走していた。
(各国のご令息やご令嬢かぁ。きっと素敵な方々なんだろうなー)
「おい」
(私なんかとは住む世界がまるで違うし……)
「おい、オリアーヌ!!!」
「!!!!」
突然、後ろから大声で名前を呼ばれた。
私が恐る恐る後ろを振り返ると、そこには怒ったような顔のガブリエルが立っている。
「ガ、ガブリエル様……何か御用でしょうか?」
「御用でしょうか? じゃない。ぼーっとしてどうした? さっきから声を掛けていたんだぞ」
「えっ! 失礼いたしました! ちょっと考え事をしておりました……」
「ここしばらく、お前様子がおかしいぞ。やたらと俺の周りを気にしているようだしな」
「そ、そんなことはございません!」
(バレてた!)
ガブリエルは、小さくため息をつきながら私を見て言った。
「まぁいい……。それより、今日のパーティーでの食事。デザートは『紅茶のシフォンケーキ』にするようシェフに言っておいてくれ」
「えっ? 『紅茶のシフォンケーキ』でございますか?」
「そうだ。今日来る奴らの中には、俺の学友だった奴らも多く来るからな。前々から頼まれてたんだ、『紅茶のシフォンケーキ』が食べたいって」
「でも、そんなにマイナーなデザートじゃないですよね? ご自分たちのおうちで食べられるのでは?」
私がこう言うと、ガブリエルは勝ち誇ったように笑った。
「ふふん。この城で提供される『紅茶のシフォンケーキ』は俺が事細かく材料と分量を決めたものなんだ。他では食べられない」
「そうなんですか? ガブリエル様らしからぬこだわりですね」
「こら。失礼なことを言うな」
「では、私にもそのレシピを教えてください」
私がガブリエルにそう頼むと、悪い気がしなかったらしくすぐにレシピを教えてくれた。
「お前だけ特別に教えてやる。口頭で言うから覚えろ」
「は、はい」
私は、ガブリエルが言っていく材料と分量を聞き逃さないように注意しながら頭の中に入れていく。
すると、聞いていくうちにだんだん(あれ?)と思い始めていた。
(これ、もしかして私が昔考えたレシピ? 和に聞かれて教えた記憶がある……)
そう思い始めた途端、ガブリエルの言葉が全く頭に入らなくなってしまった。
(やっぱりガブリエル様が和なの?)
私は、目の前で嬉しそうに話しているガブリエルの顔をじっと見つめた。
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