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第12話 メイドと王子様
一面大理石の壁、彫刻が施された高い天井、磨き抜かれた床、煌びやかなシャンデリア……。
夜になり、ついに舞踏会が始まった。
各国から招待されたお客様たちが、次々と城に到着している。
私は、飲み物を持って会場内を巡回する係だ。
「君、こちらに飲み物を頼む」
初老の紳士が、私に声を掛けた。
「かしこまりました」
私が紳士に飲み物を差し出した先では、王族や貴族のご令息たちとご令嬢たちが優雅にダンスを楽しんでいる。
当然、ガブリエルやラファエルの姿もそこにはある。
私はその様子を横目に見ながら、再び会場内の巡回を始めた。
しばらく飲み物を提供するサービスをしていると、会場の向こう側で拍手と喝采が聞こえてきた。
近くにいた貴婦人たちの集団がにこやかに笑いながら歓談を始めた。
「さすがガブリエル様。ダンスの腕前は超一流ですわね。お相手のヴォワザン公爵家のミシェル様はかつてのご学友とか。お似合いのお二人ですわね。オホホホ」
お似合いのお二人?
かつてのご学友?
考えてみれば、この城で働く前のガブリエルのことを私は何も知らなかった。
私は、未だ拍手が鳴り止まない場所に視線を送った。
そこには、ミシェル様と呼ばれる女性と笑顔で話すガブリエルの姿があった。
(痛っ……)
突然、胸にチクッとした痛みが走った。
楽しそうに話しているガブリエルを見ていると悲しくなり、思わず目を逸らした。
(私、自分のことしか考えてなかった。和に会いたい一心で、勝手にガブリエル様のこといろいろ調べようとして。バカみたい)
(そもそも、メイドと王子様っていう身分の違いがあるんだからどうしようもないのに)
冷静に自分とガブリエルの立場の違いを考えると、これまで自分が二人の王子様たちに対して取った行動がとても無礼であり、恥ずかしさを感じた。
(もう、和のことは考えるのはやめよう……。私も新しい人生を受け入れないといけないんだよね)
傷心のまま、飲み物を提供する仕事を終えた。
私は、次の仕事をするために大広間の隣の部屋に入った。
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